人(霊止)還りの道 – 764編

ハテ不思議だ
こんな所に白骨堂が立つてゐる以上は
この山の上に人の家が立つてをるのだらう
先づこの堂のひさしを借りて
今宵一夜を過ごさうかなア

見れば一人の女が細い声を出して何事か祈つてゐる

憐れ憐れ吾が命白く荒廃せり
愁へる異端者の胸に
虐げの力を悲しく受けて泣く
忍従と犠牲の痛ましさ
蒼白き中に彼も朽ちてゆく
その幻滅の果敢なさよ
恋もなく友もなし
悲しくあえぎて恋も忘れ友も忘れむ
一人ゆく生命の原に
ただ横たはる黒き暗闇
父よ母よオーそして兄弟よ
身失せたまひし吾が背のために
世の中のすべて滅びゆくもののために
大空包む天の空に健かなれ
白き生淋し
果敢なく淋し
あはれあはれ亡き人あはれ
オー願はくは吾等を造りたまひし皇神よ
百の罪汚れを許し給ひて
吾が身魂をスカーワナへ導きたまへ

これこれお女中
短氣を出しちやいけませぬ
何のためにこの結構な世の中を見捨てようとなさるのか
まづまづ氣を落ち着けなさい
なにほど辛いといふても死ぬには及びますまい
先づまづお静まりなさいませ

ハイ
有難うございます
妾はこの山奥に住まひしてをりまする
小さき村の女でございます
親兄弟・夫には死に別れ
頼る所もなく
また村人の若い男たちが種々様々の事をいつて
若後家の貞操を破らせうといたしますから
一層のこと親兄弟・夫の後を追ふて安楽世界へ参らうと存じ
祖先の遺骨の納めてあるこの白骨堂の前で
自刃せむといたしたところでございます
もはや此世に在つても何の楽しみもなき妾
悪魔の誘惑にかかつて罪を作らうより
夫の後を慕ふて極楽参りをせうと覚悟を定めました
どうぞお止め下さいますな

貴女のお言葉も一応もつともながら
あなたが一人残されたのも神界の御都合でせう
あなたが自殺するといふことは罪悪中の罪悪ですよ
やむを得ずして命が終つたなら天国に往けませうが
吾が身勝手に命を捨てたものは天国へは往けませぬ
きつと地獄に往きますから
お考へ直しを願ひます

自殺を致しましたら
どうしても天国へは行けませぬか
はて困つた事でございますなア

あなたはいま承れば
親兄弟・夫に先立たれと仰有いましたが
それや又どうして左様なことになられたのですか
あなたが今自害して果てたなら
親兄弟・夫の菩提を弔うものは誰もございますまい
さすれば却つて親に対し不孝となり
夫に対して不貞となるでせう

ハイ
御親切によく言つて下さいました
あなたの御教訓によつて妾の迷ひも醒めました
何分よろしくお願ひ申します
妾の家はこの小村ではございますが
夫は村のたばねをしてをりましたもので
家屋敷も可なりに広く
財産も相応にございますが
半月ほど以前に
大泥棒の乾児といふ奴が
十数人の手下を引きつれ夜中に忍び込み
家内中を鏖殺しにいたし
宝を奪つて帰りました
その時妾は
押入の中に布団を被つて都合よく匿れましたので
生き残つたのでございます
その後は村人の世話になつて親兄弟・夫の死骸を荼毘に附し
此の堂に白骨を納めて
相当の問弔をいたしましたが
何となくその後は心淋しくなり
またいろいろの若い男がうるさくて
死ぬ氣になつたのでございます

承れば承るほど同情にたへませぬ
しかしながら
かうなつた上はもはや悔やんでも帰らぬこと
これから一つ氣を取り直し
神様にお仕へになつたらどうですか

ハイ
有難うございます
しかしながら妾の村は五六十軒の小在所でございますが
先祖代々から〇〇〇教を信じてをりますので
にはかに別のお道に入る事はたうてい出来ますまい
折角のお言葉でございますが
なにほど妾が信じましても
三百人の村人が承知せなければ駄目でございますからなア

決して決して
左様なことに御心配は要りませぬ
何れの教も誠に二つはありませぬ
また神様は元は一柱ですから
〇〇〇教でもよろしい
あなたが今死ぬる命を永らへて比丘尼となり
祖先を弔ひ
また村人を慰め
この山間に小天国をお造りになればよろしいではございませぬか

チヤムバカ(黄色花)
バータラ(重生花)
バールシカ(夏生花)
ナワマリカー(雑曼花)
スマナー(悦意花)
所狭きまで匂ひたる
野道をスタスタ進み往く

鈴木慧星 SUZUKI Satose
Shamanism Consulting.

略歴経歴

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