人(霊止)還りの道 – 758編

二人のトランスが又もや路傍の石に腰打ち掛け何か雑談に耽つてゐる

オイ
つまらぬぢやないか
俺たちも生れてから
やつた事もないトランスとなり下り
住みなれし故郷に帰るわけにもゆかず
〇〇の親分に従つて
あてどもない鳥を探して日々過ごすのは本当に氣が利かぬぢやないか
俺アもう
いい加減に機会を考へて故国へ帰り
何とかして生計を立て
理想の生活を
自分の故郷において営んでみたいと思ふが
お前はどう思ふか

馬鹿な事をいふな
どこで死なうと
かまはぬぢやないか
凡てこの天地は吾々の故郷だ
貴様のやうに故郷といつたら
自分の生れた土地ばかりだと思つてゐるのは
まだ真の故郷を知らぬものだ
自分の生れた故郷はただ此の世の旅の一夜の宿りのやうなものだ
それだから海で死ぬるもよし
山野において死ぬるのもよし
河で死ぬるも都で死ぬるも
田舎で知るぬも
また旅に出て並み木の肥料になるのもいいぢやないか
天に日月星辰を宿し
地に万物を戴するところ
行くとして己が故郷に非ざるはなしだ
それだから此の天と地との間は
どんな処において暮すも
睡るも
死ぬるも差支へはない
人間がかく悟つた以上は
別に生れた所が恋しいの
命が惜しいのといふ道理がないぢゃないか
何国何郡何村の何某の先祖も
元々その土地から水のやうに湧き出で
菌や筍のやうに土の中から
もぐり出たものぢやあるまい
やはり外から移住して来て
その土地を開いたのぢやないか
俺達の先祖にして已に然りとすれば
その子孫たるものは何ぞ奮つて祖先の行動を採らざるやだ
見ず知らずの新しき国に至り
新しき土地を墾いて新しい村を作るも
トランス団を組織するも皆人間の自由ぢやないか
人間たるもの
ここに至つて初めて
その面目を発揮せりと言ふべした
一竿飄然として狐舟に棹さす
また甚だ快ならずやだ
しかるを何万何千頓の汽船に乗つて一度その土地を離れむとする時
数千百の蚯蚓のやうな小胆者は
別れを惜しんで涙を振つてゐるが
実に吾人のこれは恥辱ではあるまいか
同じ国のこの土地において活動しながら
故郷を恋しがるとは
甚だもつて醜の醜たるものではないか
この地を去つて彼の地に至り
隣を去つて隣に至る
何ぞ別離を惜しみ
心身を痛むるの愚のを要せむやだ
貴様ごとき鈍根愚痴
醜態もここに至つて
真に極まれりといふべしだ
あまり腹の中が見え透いて
俺ア可笑しうなつて来たわい
ちつと確りせないか
そんなことでトランス商売が勤まらうかい
一波来たりて一波去り
万波来たつて万波去る
これ海洋万里の状態だ
激浪も怒濤ももうこれ通常事だ
徒に真の故郷を解せない貴様のごときは
無暗に故郷に遠ざかるのを恐れ
顔色まで蒼白色に変じ
胸を焦がす小魂小胆者だ
しまひには病氣を起して縮み上がり
身動きも出来ぬ
憐むべき代物だよ
千里の山野を渉つて腸を絞り
一村落の花園に快哉を叫ぶ腰抜け者ごときは
到底人生を語るに足らぬものだ
小さき寒村に
営々として田畑を耕し
田の草取りに日を暮す人間
よろしく寒山氷地
広袤漠々の野に家を築いて以て一大帝国をなして
天地経綸の司宰者たる本分を尽すが
男子たるものの勤むべきところだ
この天地は真に吾々の故郷だ
一夜の宿に等しき産土の地を出でては
再び古巣に帰り
家を求むるごとき卑屈のことは為るものではない
これが今日の人間の世に処すべき要訣だ

お前の弁舌も一応尤もだが
しかしながら産土の土地を恋しがらないものが
どこにあらうか
生れ故郷を忘れるやうな奴は遂には国を忘れ
仁義道徳を忘却し
妻子に対して不仁となり
祖先に対して不孝の罪を重ぬるものだ
望郷の念に駆られざるものは
もはや人間の霊性を忘却した人面獣心ぢやないか

アハゝゝゝ
人の財物を掠めるトランスとなりながら
仁義道徳も
孝・不孝もあつたものかい
この社会へ這入つた以上は善悪・倫常・孝悌などに超越せなくちや到底発達は遂げられないぞ
俺だつて生れつきの悪人ぢやないから
善悪正邪の区別くらゐ知つてゐる
しかしながら俗にいふ通り
勝てば官軍・敗くれば賊だ
俺だつてトランス様で一生を終らうとは思はない
何とかいい機会があれば世間のいはゆる善に立ち帰り
虚礼虚偽の生活を送つて世間に謡はれたいのは山々だ
その材料を集むるために好きでもないトランスをしてるのだ
まだ吾々は仁義道徳を称へるだけの余地が無い
そこまで物質的の準備もなく
世間を詐る偽善の権化となつて威張るところへはゆかないのだ
今の間は何よりも商売の発達を考へるのが安全第一だ
金さへあれば愚者も賢者となり
無学者も学者となり
悪人も善人となり
蝿虫野郎も有力者といはれるのだからな
貴様も一つ改心して
トランス学の研究に一意専心没頭するのだな

トランス学の研究も随分苦しいものだな
南無バラモン大自在天
守り給へ幸はへ給へ

霜おく野辺の夜はふけて
身を裂るばかりの寒風に
御空の月は清く震ふ
喧々轟々の声
彼方此方より響き来たる
世は何となく物騒がし
秋の紅葉の凩に
もろくも散りて
囀る鳥の声ひそむ
アゝ荒れ果てし山野の景色
小夜ふけて峰の松風
庵を叩く
夕日の影は暗くして
バラモン男子の意氣消沈す
守らせ給へ自在天
大国彦の大御神
アゝ苦しいせつろしい
こんな浮世に何として
私は生れて来たのだらう

こりや
何といふ卑劣な歌を謳ふのだ
夏の真盛りに冬だの凩だのと
そんな淋しいことをいふない
バラモン兵士でありながら
意氣が萎むの何のつて
泣声を並べやがつて
アゝ俺も何だか浮世が嫌になつて来たわい
水は方円の器に随ひ
人は善悪の友によるといふからな
お前のやうな悪の破産者と一緒に働いてゐると
どうやら俺も世の中の無常を感じて
社会のいはゆる善の道へ堕落しさうだ

鈴木慧星 SUZUKI Satose
Shamanism Consulting.

略歴経歴

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