人(霊止)還りの道 – 757編

世の中に何が一番困難事だといつても
世に処するの道ほど
むつかしいものはないのだ
日月星辰は大空に懸り
雲は中空に彷徨往来してをつても
人間といふ奴は毎日毎日
食はず呑まずには生きてゐられない
五穀は何ほど米屋の倉に積んであつても
黄金が無ければ
一粒の五穀も買ふわけにはゆかず
酒が何ほどあらうが
黄金がなければ
自由にならない
朝は山から吹き颪す山嵐に震へながら
身を縮めて野良仕事も
夜は星を戴いて家に帰つて来るのも

その日その日の生活をなし
または黄金を貯へたいからだ
黄金がなければ
どうも仕様のない今の世の中だから
仕方なしにトランス様になつたのだ
意地の無い奴は
首を吊つてブランコ往生をやりよるのだが
俺等は一人前の男子だ
まさかそんな卑怯なことは出来ないからのウ
今まで〇〇軍に仕へてをつたのも
つまりは生活の安全を保つためだつた
もはや今日となつては
〇〇将軍も彼の状態になつたのだから
乾児の俺たちはトランスでもせなくては
今日の生活が出来ない

如何にも
お前の説は至極尤もだ
俺は陸海軍いづれかの将校になる
俺は何々の官吏になる
俺は何々の大事業を企てるといつて
意氣衝天の青年でも
その一面は国家を思ふとか
国民を愛するとか
立派に言つてゐるが
その半面には
やはり月給を沢山に取つて
相当な生活をしたい
といふ念慮より外には何ものもない
大体表面には
名誉とか
出世とか
成功とか
社会奉仕とか
名前だけは実に立派なことを言つてゐるが
トドの約りはやはり金が儲けたいのだ
黄金が無ければ今日の世の中は
何ほど聖人でも
学者でも
田舎の爺でも
やはり名誉を得
立身出世したとは言はれない
金のない奴は何時でも
彼奴は相変らず意氣地なしだ
困つてゐやがるナアぐらゐで
社会から追つ払はれてしまふのだ
嬶の褌一枚でも
〇〇銀行へ持つて行けば
少々ばかり汚くつても金になるが
髯や名誉では借金取りを追つ払ふわけには行かない
いかに俺は学士だ
勅任者だ
華族だ
おれは社会を取締る警官だ
と威張つてみたところが
肝腎の金がなければ
サア鎌倉といふ時には
グーの音も出ない
やつぱり米屋へ頭を下げたり
味噌屋へ味噌をすつて
お千度を踏まねばなるまい
それを思ふと金なるかなだ
しかし何ほど金が欲しいといつても
トランスになるだけは
考へねばなるまいぞ

なに
現代の人間は優勝劣敗式だから
トランスせない奴は一人もありやしないよ
金がなければ
勅任官でも奏任官でも
カラツキシ駄目だ
ましてや判任雇傭
ヘツポコ官吏をやだ
昼は廟堂に国政を議して威張つてをつても
夕べに米櫃の泣く音を聞いては
いかなる志士でも
豪傑でも
断腸の涙を溢さずにはゐられまい
それゆゑ今の世の中は皆までとは言はぬが
大小トランスを行らない奴はなからうよ
月・雪・花・恋愛・肉楽などと言つてをつても
明日の食物に芋の小片一つないと来ては
三年の恋もなほ覚めをはるではないか
身には錦衣をまとひ
髪髯いかめしく天下を睥睨し
口角泡を飛ばして
大言壮語を為すも
懐中無一物と来ては
乞食の女だつて相手にしてくれない
威張れば威張るほど腹が苦しく
錦を着れば着るほど胸が苦しい
三歳の童子も
金満家の児は威光で尊まれ
阿弥陀様でさへも金箔で価値が出る世の中だ
なにほど華族でも
法主でも
債鬼の前には頭が上らず
靴屋の息子も金さへ有れば若旦那様と
もてはやされる世の中だ
たとへ無理しても
金さへ持つてをれば
悪も善で通用するのだから
俺はどうしても初心を枉げない覚悟だ
青楼へ登る時にも
ヘイーいらつしやいと意氣な詞や
お通り遊ばせ
と艶な台詞で迎へられても
イザ勘定となつて一文も無いと来ては
如何に嬋娟な美人でも
忽ち額に皺を寄せ眼を吊り上げ
柔和なお世辞の良い番頭でも
苦情を述べ立てずにはゐられないぢやないか
先に艶麗にして柔和なりし其の顔は
たちまち鬼かエンマと激変し
入らつしやい
お上がり遊ばせ
の言霊はたちまち出て行け
腰抜け奴
の暴言となり
命令となり
果ては引つぱられた其の手で
すげなくも突き出され
迎へられた其の口から
唾液を吐きかけられる事になるのだ

なるほど
そらさうじや
金が無くては今の世の中に生活する事も出来ない
どうしても衣食住を廃することの出来ない人間は
食はずには生きてをれない動物たる以上は
如何に金銭に威張られても仕方がない
是非とも善良なる方法で
黄金を蓄へ
米を買ひ
生命を繋ぐ算段をせなくてはなるまい
衣食足り
住居あり
生命あつての上の事だ
そこでこの衣食を満たし
住居を定め
生命を繋ぐ算段をするのが肝腎だが
こいつが仰難ケしいので
栄辱も利害も
禍福も得失も
倫常も学問も
教育も戦争も
皆この必要から湧き出されるのだ
この根本的原理を離れた道徳もなく
この原理を去つて社会なく
国家もない
いはんや政治・経済・実業・教育・科学・宗教をやだ
宇宙間の森羅万象
これ悉く吾々が生活の資料となり
要素となるもので
この生活のなき以上は
宗教も
坊主も
神主も必要がないのだ
況んや
聖人君子も
天地そのものも
既に必要がない
太陽の光線
星辰の運行
風雨霜雪
河川港海
山岳森林
皆これ
吾々が生活のため設けられたものではないか
この生活をなし
生命をつないで行くのは
人間それ自身でなければならぬ
人生をいふのは
生活上において
千差万別の状態のあるのを
いふのだからのウ
なるべくトランスだけは止めて天与の富源を開拓しようぢやないか

俺たちは
百姓せうにも田畑はなし
鋤鍬
その他の附属道具もなし
商売するにも資本なし
だといつて乞食も出来ないから
この世を太く短く暮すトランスを
やむを得ず選むことにしたのだ
貴様も今となつて
そんな弱音を吐くものでないよ
それよりも早く
何とか一仕事して帰らなければ
親分に言訳が立たぬぢやないか

オイ
外両人
一蓑一笠で神のため世のために
広い天地を跋渉するくらゐ愉快な事はないよ
この広い結構なこの世の中を
狭く暗く
恐れ戦いてくらすのも
喜んで勇んでくらすのも
皆心の持様一つだ

ハイ
どうしてどうして
アタ窮屈な恐ろしい
トランスなんかなれますか
世の中にトランスをやる人間ほど
馬鹿の骨頂はございませぬワ
此の世の中が狭くて
大きな咳一つ出来ぬやうな氣が致しますからな
なにほど金の世の中だといつても
自分の魂には替へられませぬ
折角結構な神の分霊を頂いて
悪に曇らしてしまへば
久遠の霊界において其の報いを受け
無限の苦しみを受けねばなりませぬからな

そらさうだらう
僅かの此の世の中で
悪事をして
未来永劫の災ひの種をまくぐらゐ馬鹿な者はあるまいよ
ヤア何だ
ここにもベソをかいてゐる感謝組が隠れてゐると見えるな
オイ外両人
何者か知らぬが
そんな所で何を吠えるのだ
こんな結構な天国に生れながら
泣く奴があるかい
汝も大方神さまの恵に放れた馬鹿者だらう
遠慮は要らぬ
一つ引導を渡してやらう
サア早う
出たり出たり
サアこれから俺と一所に
魂を研いて
立派な神さまの御子となり
世のため道のために尽さうぢやないか

鈴木慧星 SUZUKI Satose
Shamanism Consulting.

略歴経歴

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