「人(霊止)還りの道」387編


ある所に医者があつた
大変ようはやる医者で山井養仙さんといつて名高いものだつた
そいつに一人の山井養洲といふ弟子があつた

そこへ土地の富豪の松兵衛が病氣に罹り養仙先生の薬を服用してゐた
少し快くなると又悪くなる
また快くなる
また悪くなる
三年ばかりもブラブラして養仙先生の薬を神のやうに思つて服薬してゐた

あるとき養仙先生が二三日急用が出来て他行した不在の間に弟子の養洲が松兵衛を留守師団長氣分で診察し薬をもり与へたところ三日目にスツカリ全快してお礼にやつて来よつた

四五日たつと養仙先生が帰宅したので弟子の養洲がしたり顔で「養仙先生あの松兵衛をあなたの不在中にこの私が診察して薬をもりましたら三日目にスツカリ全快しもはや薬に親しむ必要がないからお礼に来ました」といつて薬価を勘定し「チツとばかり菓子料を置いて帰りました これがその菓子料でございます」と差し出し褒められるかと思ひのほか養仙先生は目に角を立て「大馬鹿者ツ 貴様は医者の資格はない」とどなりつけた

そこで弟子の養洲がむきになり「医者は仁術といつて人の病氣を助けるのが商売ぢやありませぬか 何故お叱り遊ばすか」といへば養仙先生はちよつとダラ助をねぶつたやうな顔して「貴様は馬鹿だなア 松兵衛の内にはまだ倉もある家も山林田畑も残つてゐるぢやないかエーン さう早く癒してどうなるか あいつの財産が全部俺の懐へ這入るまでは癒されぬのだ バカツ」と言つたさうだ

実に偉い医者だ
その心得がなくてはどうしても名高い医者にはなれないワ
さうだからどうともヨウセンのだ
アハゝゝゝ
イヒゝゝゝ

俺は藪医といふものだ
マア俺様の技術を信用してくれ
こふ見えてもこの俺は白十字病院長・死学博士だ
千人の患者を扱つたら九百九十九人まではみな霊壇へ直し墓場へ送るのだから死学博士といふのだよ
ずゐぶん偉い者だらう
そして天国へ復活さしてやるのだ
生かさうと殺さうと自由自在
耆婆扁鵲も跣足で逃げるといふ大博士だからなア
ウツフゝゝゝ

オイ藪医先生
何時になつたら俺の足痛は癒るだらうかなア

マア
マアちよつと予後不良だから計算がつかぬワイ
すべて病には二大別がある
一を先天性疾病といふ
一を後天性疾病といふ
しかして予後
良あり
不良あり
いづれも良不良を決し難きものありだ
それから
治すべき病
治すべからず病
治負不治を決し難き病
自然に放擲しておいても癒る病
と四種類ある
それに対して
内科
外科
産科
と分れてゐる
また婦人科・小児科といふのも此ごろはふえてきた
そして薬には
内服薬
外用薬
と大別される
また頓服剤も必要があり食塩注射にモルヒネ注射そしてこのごろは六〇六注射まで開けてきたのだ
ずゐぶん医者になるのも学費が要るよ

千人を殺して医者になる奴は
おのれ一人の口すぎもならず

この俺様だつて今まで九百九十九人まで殺してきたのだ
モ一人殺せば一人前の医者になるのだ
ちやうど貴様を一人霊前に直すそこではじめてこの俺も一人前のドクトルになるのだからなア
何とよい研究材料が出来たものだ
アハゝゝゝ

アハゝゝゝ
藪医先生
いつの間にか俺の足痛は尻に帆かけて遁走したとみえるワイ

コリヤなまくらな
足痛の真似をしてゐたのだな
仕方のない奴だ

何もかも白状するワ
実は足はかうして繃帯で巻いてゐるがチツとも怪我してゐないのだよ

アハゝゝ
こいつア誤診だつた

誤診がご親切か知らぬが
打診もないやうだ

ずゐぶん聴診にのつて大変な失敗をした
サアこれから貴様も望診望診といつたらどうだ
問診も道で会うたら死学博士が宜しう言つてゐたと言うてくれ
アーン

オイオイ院長さま
なぜ鼻の下をさう撫でてゐるのだ
妙な恰好ぢやないか

ウンこれかい
髭はないけれど
氣分だけは八の字髯を揉んでゐるつもりだ
アハゝゝ

オイ
モウ病院遊びはやめにしようかい
そしてゆつくりと軍話でもしたらどうだ
ずゐぶん面白いだらうよ

敗軍の将
兵を語る
葬礼すんで
医者話と同じ

・・・「人(霊止)還りの道」388編へつづく

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