「人(霊止)還りの道」359編


四面寂寥として虫の声もなく
際限もなき枯野原を
形容し難き魔の風に
吹かれながらに進み行く

道の片方の真赤な血の流れたやうな方形の岩に腰をうち掛け息を休めてゐる一人の男がある
そこへ怪しき声を張り上げながら杖を力にトボトボと足許覚束なげにやつて来る七八人の男いづれの顔を見ても皆土のごとく青白く頭に三角の霊衣を戴いてゐる
これは言はずと知れた幽界である

ヨーお早う
お前もやつぱりこんな所へやつて来たのかなア
附き合ひのいい男だな
死なばもろとも死出三途・血の池地獄・針の山・八寒地獄も手をひいて十万億土へ参りませう
モウかうなつちや現界と違つて幽界では名誉心も要らねば財産の必要もない
従つて争ひも怨恨も不必要だ
ただ恨むらくは生前にバラモンの神様を信じてゐたのだがガラリと外れてこんな淋しい枯野ケ原を渉つて行くだけが残念だがこれも仕方がない
サア一緒に参りませう

ヤア皆さま
お揃ひだなア
しかし俺はまだ死んではゐないのだから亡者扱ひは御免だ
千引の岩の上において激戦苦闘をつづけた英雄豪傑の俺さまが年の若いのに今頃死んでたまるかい
この俺さまには生きたる神の御守護があるからメツタに死んでる氣違ひはないのだ
お前達は甘いことをいつて俺を冥途へ引つ張りに来よつたのだな
さてもさても肚の悪い男たちだ
モウいいかげんに娑婆の妄執を晴らさないか
かやうな所へふみ迷うて来ると結構な天国へ行かれないぞ

オイ貴様なに呆けてゐるのだ
ここは娑婆ぢやないぞ
幽冥界の門口の枯野ケ原の真中だ
サアこれから一緒に前進しよう
何れいろいろの鬼が出て来て何とか彼とか難題を吹つかけるかも知れないがそれも自業自得だ
各自に心に覚えがあることだから何が出ても仕方がない
皆俺たちが心の中に造つた御親類筋の鬼に責められるのだから諦めるより道はなからうぞ

ハゝゝゝゝ亡者のくせに何を吐すのだ
氣楽さうに青・赤・黒の鬼が鉄棒を持つてやつて来たら貴様それこそ肝玉を潰して目を眩かし二度目の幽界旅行をやらねばならなくなるぞ
この俺さまは何といつても死んだ覚えはない

マアどうでもいいワ
行くとこまで行つてみれば死んでゐるか生きているかよく分かるのだからなア

・・・「人(霊止)還りの道」360編へつづく

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