「人(霊止)還りの道」324編


たうたう竜雲の曲神なる陥穴に深くおちこみ
こんなザマになつていまつた
モウかうなる上は
何時解放されるかも分かりやしないし
活殺の権は竜雲が握つてゐるのだから
俺たち一同の生命は
まるで暴風の前の桜のやうなものぢやないか
悪人は自由自在に白昼に横行闊歩し
吾々ごとき至誠至実の人はかくのごとく惨酷な縲絏の辱めを受け
鉄窓の下に昼夜呻吟せなくてならぬとは
何としたことだらう

日頃剛胆な奴にも似ず
何といふ弱音を吹くのだい
お前が吾々四人のうちでは最も先輩だ
そしてこの中でも智勇兼備の大将と仰がれてゐる身分ぢやないか
今日はまたなぜそんな心淋しいことをいつてくれるのだ

俺やモウ世の中の無常を感じて来たのだ
なにほど人があせつたところで
吉凶禍福はたうてい吾々の左右し得べきものでない
何事も運命だと諦めるより
もはや途はないからのう

ナーニ
そんな弱々しいことを言ふものでない
お前たちは信仰が足りないのだ
かうして肉体は束縛されてゐるが
肝腎要の御本尊たる霊魂は
自由自在に快活に宇宙間を逍遥してゐるのだよ
肉体はたとへ殺し得るとも
われわれの霊魂まで殺すだけの力はない
霊魂も肉体もすべて殺す力のあるものはただ神さまだけだ

俺たちは俗人輩の自由人の目から見た時は
実に窮屈な憐れな境遇に陥つたものだと思ふだらうが
かへつて竜雲ごとき悪魔に媚び諂たふ人間の心情が憐れになつてくるワ
竜雲だつてヤツパリ同じことだ
彼奴らは天の牢獄につながれてゐるのだ
名位だとか位置だとか
財産だとか
下らぬ小利小欲に魂をぬかれ
執着心といふ地獄の鬼に自由自在の霊魂を束縛されて
呻吟してゐる憐れ至極の人物だ

牢番もいつも偉さうに牢番頭になつたと思ひ
横柄面をさらして
日に二三度この窓外をテクつてゐよるが
思つてみれば実に憐れな代物だ
朝から晩まで職務大切だといつて
行きたい所へもよう行かず
夜は夜でスベタ嬶の側でロクロク寝ることもできず
自分の子供だつて
ロクに顔を見ることはできない憐れな代物だよ
朝早く暗い内から我が家を飛び出し
夜遅く我が家へ帰つて行くのだから
子供は何時も熟睡してゐる
それだから牢番頭の子供は
キツと父なし子だと思つてゐるに違ひない
思へば思へば憐れ至極な代物ぢやないか

憂き事の
品こそ変はれ
世の中に
心安くて
住む人はなし

誰だつてこんな暗黒無明の現世に安穏に暮してゐる奴ア
一人だつて
半分だつて
ありやアしない
その事を思へば
俺たちは実に幸福な者だ
衣食住の保証はしてくれるなり
たとへ毒刃にかかつて斃れたところで
もはや使ひ古した肉の衣だ
御本尊は如何ともすることは出来ないのだから
鼎鑊甘きこと飴のごとしといふやうな氣分だ
何も心配することはない
一切万事を神さまの大御心に任しておきさへすれば極めて安心だ
過去を悔むも最早詮なし
未来を案じて取越苦労をやつてみたところで
屁の突張りにもなるものでない
ただ今といふこの瞬間こそ
吾々の自由意志を発揮し楽しむところの権能を与へられたる貴重な時間だ
刹那刹那に楽しんでゆきさへすれば
刹那は積んで一時なり
時は積んで一日となり
一月となり
一年となり
十年・百年・千年・万年となるのだ

大神の
恵の露に
うるほふて
今日も喜び
明日も喜びに充つ

心の持ちやう一つで
結構な世の中とたちまち立直つてしまふのだ
アゝ有難い有難い
こんな安楽な所がまたと世の中にあらうかい

・・・「人(霊止)還りの道」325編へつづく

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