「人(霊止)還りの道」322編


白髪異様の老人ただ一人コツコツと杖の音をさせながら岩路を登り来たり

私は無住居士といつて
生れた所も知らねば
親も知らず
子もなし
つまり言へば天下の浮浪人だ
このお館にはバラモン教の立派な方々がお集りになり
武術の稽古をなさるといふ事
私もかう年は老つてをれども
武術が大の好物
一つそのお稽古場を拝見したいものでござる

武術の稽古を見せてもらひたいといふのは
ホンのお前達に対する体好き挨拶だ
実のところサガレン王様の御危難と承り
この館にお隠れ遊ばすと聞き
はるばると尋ねて来たのだ

竜雲ごとき悪神に蹂躙され
金城鉄壁ともいふべき牙城を捨てて
女々しくも二人の部下と共に
かやうな所まで生命惜しさに逃げ来たり
岩蜂が何ぞのやうに岩窟の中に身をひそめ
捲土重来の準備となすとは
甚だもつて宇愚千万なやり方ではござらぬか
こちらに準備が整へば
向方にも亦それ相当の準備が出来るなずだ
目的を達せむとすれば
まづ第一に
間髪を容れざる底の早業をもつて
短兵急に攻めよせねば
たうてい勝算の見込みはない
今や竜雲は勝ちに乗じ
心おごり
ほとんど常識を失つてゐる場合だから
この際に事を挙げねば
曠日瀰久
無勢力なる味方を集めゐる内には向方も亦やうやく目が醒め
一層厳重な警備もし
防禦力も蓄へ
まさか違へば雲霞のごとき大軍を以て
一挙に攻め来たるやも計り難い
なにほど要害堅固の絶処なればとて
敵に長年月包囲されようものなら
水道は断たれ
糧食は欠乏し
居ながらにして降服せなくてはなろまい
これくらゐな考へなくして
どうして佞智に長けたる竜雲を討伐することが出来ようぞ
また味方の中にも敵がある世の中
よく氣をつけたがよからうぞや

その間者を看破するだけの眼識がなくては
たうてい駄目だ
この館に出入する人々の目の使ひ方
足の歩き方
体の動かし方などを
トツクとお考へなされ
一目にして正邪が分かるであらう

成功するかせないか
知らしてくれといふのかな
左様な確認のないアヤフヤなことで
どうして大事が遂げられるか
第一お前たちは心の置き所が違つてゐる
サガレン王に忠義のために心身を用ゐるは
実に臣下として感ずる至りである
がしかしながら
サガレン王以上の尊き方のあることは知つてござるか
それが分からねば今度の目的は
氣の毒ながら全然画餅に帰すだらう
否かへつて大災害を招く因となるにきまつてゐる
それよりも今の内に甲をぬぎ
竜雲の膝下に茨の鞭を負ひ
降伏を申し込む方が近道だ
アハゝゝゝ

そなたはバラモン教の神司

王の臣下であらう
三五の教に信従しながら
時の天下に従へと言つたやうな柔弱な考へより
吾が身の栄達を計るため
サガレン王の奉ずるバラモン教に入信つたのであろうがな
どうぢや
この無住の申すことに間違ひがあるか

いづれの道に入るも誠の道に変はりはない
その事は別に咎めもありますまい
さりながら
そこまで真心を尽くして王のために努めむとするならば
至上至尊の真神大神さまのために
なぜ真心を尽くさないのか
神第一といふ教の真諦を忘れたのか
左様な心掛けでは
なにほど千慮万苦をなすともたうてい駄目だ
真神大神のお力にすがり奉りて
サガレン王を助けむとする心にならば
かの竜雲ごとき曲者は
物の数でもあるまい
誠の神力さへ備はらば
竜雲ごときは日向に氷をさらしたごとく
自然の力によりて自滅するのは当然の帰結である
何を苦しんで
数多の同志を集め
殺伐なる武術を練習するか
武はいかに熟練すればとて
一人をもつて一人に対するのみの働きより出来まい
無限絶対の真神大神の力に依り
汝が霊魂の上に真の神力備はらば
一人の霊をもつて一国の霊に対し
または億兆無数の霊に対しも恐るる事はなきはず
また霊力さへ完全に備はらば
汝一人の力をもつて億兆無数の力に対し
また汝一人の体をもつて億兆無数の体に対抗し
よくその目的を貫徹する事を得るであらう

われは天下の神司
五大洲を股にかけて
万民の不朽不滅の魂に永遠無窮の命を与ふる神の使ひの神司だ
僅かにかかる小国を治めかぬる如きサガレン王に対して
われより訪問するとは
天地転倒も甚だしきものだ
サガレン王は
単にこの島国の人間の肉体の短き生命を保護し監督するだけの役目だ
霊魂上の支配権は絶無だ
かかる体主霊従的精神の除れざる内は
いかに神軍を起こすとも
悪魔の竜雲を言向和すことは思ひもよらぬ事である
最早われはこの場に用なし
さらば

あゝ惟神惟神
神が表に現はれて
善と悪とを立別ける
とはいふものの世の中は
顕幽一致・善悪不二
善もなければ悪もない
心一つの持ちやうぞ
サガレン王に仕へたる
王の忠義に至る両人よ
神を力に誠を杖に
朝な夕なに真心を
洗ひ浄めてサガレン王の
君の命は言ふも更
この世の祖と現れませる
皇大神の御前に
天地自然の飾りなき
誠の心を捧げつつ
祈れよ祈れ国のため
天地の間に生ひ立てる
すべての物になり代はり
罪を贖ひ千万の
悩みをわが身に甘受して
神の大道にまつろひし
その真心を現はせよ

神は汝と倶にあり
とは言ふものの汝が心
いかでか神の守らむや
神の守らす身魂には
塵もなければ曇りなし
心の空は日月の
光さやけく照りわたり
平和の風は永遠に吹き
花は匂ひ鳥歌ひ
実りゆたけき神の国を
心の世界に建設し
宇宙の外に身を置いて
森羅万象睥睨し
元の心に帰りなば
汝はもはや神の宮
神の身魂となりぬべし
神の大道をつつしみて
われの姿を村肝の
心を定めてよく悟れ

・・・「人(霊止)還りの道」323編へつづく

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