「人(霊止)還りの道」305編


白黒の石を砂の上に並べ
どうもかうも
この黒がしぶとうて
邪魔になつて仕方がない
こいつ一つ殺してしまふと後は大勝利になるんだがなア

馬鹿言へ
この世の中は苦労(黒)が肝腎だ
苦労なしに物事が成就すると思ふか

この黒い石を殺すと言つたつて
元から鉱物だ
動植物と違つて
生命をとるわけにもゆかず
斬り倒して枯らすわけにもゆかぬぢやないか

すべての汚濁や曇りや
塵芥を除き去つた純白のこの石は
まるで神様の御霊のやうなものだ
よく見よ
中まで水晶のやうに透き通つてゐるぢやないか

俺の爺は昔
日の出神様が火の国へお出でになつた時
ご案内申したお礼として
水晶玉を下さつたが
今に俺ん所の家宝として
大切に保存してあるが
その水晶玉の前に行つて
何でもお尋ねすると
宇宙の森羅万象がスツカリ映るのだ

それよりも
建能姫さまは体中から何とも言へぬ水晶玉のやうな光が絶えず放射してゐるのだから
たうてい吾々凡夫がお側へでも寄りつかうものなら
それこそ目が潰れてしまふワ

しかし何でも色の黒い
鼻の曲がつた男が
水晶玉を懐に入れて行きよつてなア
建能姫さまに面会し
「これは吾が家に伝はる重宝でございます」
「これを貴女に献上いたします」
としたり顔に差し出したところ
建能姫様は厭さうな顔付きしながら
ソツと手に受け取り
クルクルと転がしてみて
「ハハーこの水晶玉には恋慕といふ執着心の黒点が現はれてゐるから」
「折角ながらお返し申します」
と無下につき返された馬鹿者があるといふことだ

それでその男は玉の黒点が氣になつてたまらず
どうぞしてこの黒点が除れたならば
建能姫様に献り
歓心を買ふて
ソツと婿にならうといふ野心があるのだ
その野心が除れぬ間は
なにほど日の出神から頂いた水晶玉でもその黒点は除れはせないよ

忍ぶれど
色に出にけり
吾が恋は
物や思ふと
人の問ふまで

そんな曇りのある水晶玉は
貴様んとこの不吉だから
いい加減に川へでも投げ込んでしまつたら如何だ
災の来たる前にはキツと宝の表に黒い影がさすといふことだ
人間の面体だつて
凶事の来たる前は
どこともなしに
黒ずんだ斑点が現はれるのだからなア

捨てよといつたところで
爺の言ひつけ
どんなことがあつても
この玉は吾が家を出すことはできぬ
それとも
尊き神様が現はれなさつたならば献上してよいが
決して人に売つたり譲つたり
捨てちやならぬと
死んだ爺の遺言だから
俺の自由にはならないのだ
建能姫様がお受け取り下さらねば
もう仕方がない
この玉は黒点が除れるまで
ご祈願をこらして身を慎むより
俺には方法がないのだ

そんな小ぽけな水晶玉に
広大無辺の国魂神様が憑つてござるとは
チと理屈が合はぬぢやないか

馬鹿いふな
伸縮自在の活動を遊ばすのが
いはゆる神様の御高徳だ
至大無外
至小無内
無遠近
無広狭
無明暗
過去・現在・未来をただ一塊の水晶玉に集めて
俺達が掌で玉を転がすやうに
自由自在になさるのが神様だ
その神様の御霊があのやうに曇りかけたのだから
吾々筑紫洲の人間はウカウカしてはをられないのだ
お前達は直に建能姫様に俺が恋慕をしてをるやうに
妙なところへ凡夫心を発揮しよるが
そんな陽氣なことぢやない
今に地異天変がいつ突発するか分かつたものぢやないぞ

決して嘘は言ひませぬ
一言でも嘘を言はうものなら
国魂神様の罰が当たつて
たちまち口が歪んでしまひます
この熊襲の国の人間に口が歪んだ奴が多いのは
みな嘘を言つて神罰を受けた奴ばかりですよ

ハテ合点のゆかぬことだなア

・・・「人(霊止)還りの道」306編へつづく

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