人(霊止)還りの道 – 285編

ここは焦熱地獄の八丁目だ
ようマア踏み迷ふてござつた

閻魔大王様からお前がここへ来るからここに待ち伏せしてをれの御命令を受けて二三日前から待つてゐたのだよ

よい所へ来てくれた
サアゆつくりと這入つて休息さつしやい
やがて赤鬼や青鬼が火の車を持つてお前を迎へに来るからマア楽しみて待つてゐるがよからう
一度は火の車に乗つてみるのも面白からうぞや

儂は焼野ケ原の脱皮婆アといふ者だ
三途の川には脱衣婆といふ者がをつて着物を脱がすがそこを通る奴は罪の軽い連中だよ
この焦熱地獄の旅行する奴は最も悪い罪人が出てくる所だ

それだからお前の肉の皮をスツカリ剥ぎ取つて剥製にして黄泉の都の博物館に陳列し皮を剥いだ後の肉体は火の車に乗せて閻魔の庁へ送り鬼どもが喜びて塩焼きにして食てしまふのだから心配することはない
今となつては心配したところで駄目だよ
チヤンときまりきつた運命だから

そりや合点往かぬはずだよ
合点のゆかぬ事ばかりやつて来たのだから無理はなけねども
もういい加減に因縁づくぢやと合点をせなきやならなくなつてきたよ

お前を迎へにくる火の車は自惚車といふ妙な脱線し転覆する車で危ないものだが
紅井のやうな赤い顔をして目を剥いた女の鬼が一人まあ少し年増の女鬼が一人
火の車を持つてお前を迎へに来る段取りがチヤンとできてゐるのだから今の間なりと氣楽に歌でも唄つておかつしやい

火の車が来たが最後
お前の体は不動さまのやうに恋の情火が燃え立つて熱い目に会はねばならぬのだからな
アゝ思へば思へば不愍なものだワイ

火の車
別に地獄にや
なけれども
己が作つて
己が乗り行く

お前が作つた完全無欠な火の車だから誰に遠慮も要らぬ
ドンドンと乗つて行かつしやれや

何事も世の中は自業自得だ
善因善果
悪因悪果
蒔かぬ種は生えぬとやら
自分が蒔いた種が成長して花が咲き実のりまた自分が収穫をせなくちやならぬ天地自然の法則だからなア

軽い罪は皆見のがして三途の川で衣を脱がしそれから生まれ赤子の赤裸にして霊の故郷へ帰してやるのだが
お前のやうな罪人はどうしても帰すことができないよ

また何ほど立派な審判の鬼だとて中には盲もあるからお前の罪は俺が聞いてもホンの軽いやうに思ふが火の車に乗せられて焦熱地獄へ落としてやらうと判決されたのだから
この婆アの力ぢやどうすることもできない

閻魔さまだつて直接に調べるのぢやないから疎漏もあるだらうし無実の罪で来てをる憐れな人間もチヨイチヨイあるやうだ
何ほど冥途の規則が立派に出来上がつてをつてもそれを運用する審判の鬼が盲だつたら駄目だからな
マア諦めるより仕方があるまいぞよ
上の大将からして盲の幽霊ばかりだから困つたものだよ

この婆アもお前には満腔の同情を表してゐるけれど上から押へられるのだからどうする事もできやしない
お前の言訳を一つでもせうものならそれこそ大変だ
下の役のくせに上役の裁いたことを何ゴテゴテ言ふかと言つて一遍に免職さされてしまふのだ
さうすればお前が今渡つて来た慾の川にをつた我利我利亡者のやうに骨と皮とになつてしまはねばならぬ

アーア
暗がりの世の中といふものは情けないものだわい

かかるところへ
ガラガラとけたたましき音を立て
いかめしき面した赤鬼・青鬼
金平糖を長うしたやうな金棒を携へ
火の車を引きつれて
この場に向かつて勢ひよく駆けつけ来たる

鈴木慧星 SUZUKI Satose
Shamanism Consulting.

略歴経歴

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