人(霊止)還りの道 – 824編

茶湯の宗匠は朝早うから坊主頭に捻鉢巻・腰衣を高くまき上げ座敷を掃いたり門を掃除したり何か珍客の出て来る様子
さうして何となく万金の宝を人知れぬ処で拾つたやうな顔付してニコニコと笑つてゐる
愚者の一芸とかいつてこの茶坊主も茶の湯の道だけが可なり覚つてゐるやうである

母屋の方には宗匠の女房として年の若い体格美に傾き過ぎた布袋女が一人住まつてゐる
五斗俵を軽々と持ち運ぶその力どこに一点の女らしい処も見えない
顔色黒く頭髪は茶褐色の大女
到底ヒステリ性を尊ぶ小説家の材料になりさうもない奴
もし当世流の才子風より見れば一切の境遇に何等の意味もなく殆ど生存の要もなく只一個の哀れ至極なる肉体物に過ぎないのだ
鞋虫の文学者や穀潰しの政治家や蓄音器の教育家や米搗螽斯の小役人どもが仔細らしく茶の湯の手前を誇り交際場裡の補助にもがなと茶坊主の茅屋を折りをり訪ねて来るのみであまり流行らない宗匠である

身体は痩せて壁までが骨を出し軒は傾き上雪隠の屋根から月を見る重宝な住居である
夕立の時にはバケツや盥・手桶などを慌てまはして座敷中に持ち運び時ならぬ雨太鼓の音をさせてゐる

鈴木慧星 SUZUKI Satose
Shamanism Consulting.

略歴経歴

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