「人(霊止)還りの道」633編


お前はまだ未婚だなア

ハイ
左様でござります
どうも縁が遠縁でござりまして困つてをります

今まで幾度となく縁談の申し込みがあつたぢやないか
なぜ両親の言葉を聞いて早く養子を迎へなかつたか

ずゐぶん立派な養子も申し込んで下さいましたけど
ご存じの通りお多福でござりますれば
心から私を愛して養子に来る人はありませぬ
みんな父の財産を相続するのが目的で養子の申し込みがあるのですから
そんな犠牲にせられちや堪りませぬからな
すでに養子とならば主人です
両親の目の黒い間はともかく
両親が国替へでもいたしましたら
そろそろ被つてゐた猫の皮を剥ぎ本性を現はし
美しき女を妾に置いたり
あるひは本妻をおつ放り出し
妾を本妻にする悪性男の多い世の中ですから
うつかり養子ももらふわけにも参りませぬ

お前は実際のところ
番頭に恋着してゐるのだらう
それだから左様なことを申して
立派な養子があつてもみな翅ねつけてゐるのだらうがな

お察しの通り
宅においた番頭でござりますけれど
ラブの上下の区別はござりませぬ
また番頭を養子にしておけば
世間の夫のやうに威張らなくてなにほど宣いか知れませぬから
家のためにも自分のためにも大変好都合と存じまして
両親はどう考へてるか知りませぬが
私はそれに定めてをります
なにほど番頭といつても人格に変りはありませぬ
すべて男も女も相互ひに個人としての人格を基礎として結合すべきものだと思ひます
一方から一方を奴隷扱ひするのでもなく物品視するのでもなく
また神のごとく尊崇するのでもない
双方ともに平等の人格と人格との結合でなければ真の恋愛でもなく
結婚でもありませぬ
今日のごとき男尊女卑的の結婚は実に不合理きはまるもので
その性的関係についてもほとんど主人と奴僕のごとく
顧客と商品とのごとく
あるひは牝馬と種馬とのごとく
個人としてすでに一度目の覚めた人間から見れば
甚だしく非人間的な非論理的な性的関係だといはねばなりますまい
夫が女房に対して可愛がるとか
面倒をみてやるとか
優しくするとか
などの言葉に対して
妻の方から旦那様のお氣に入るとか
可愛がられるとかいふ言葉が存立し得るごとき夫婦関係は
そこに仮令いかなる愛情が存在してをらうとも
決して真正な結婚ではありませぬ
飼ひ主が愛犬に対する愛情
あるひは資本家が賃金報酬に対する温情主義と称するものと何等異なるものなきもので
真の人と人との道徳的な関係ではありませぬ
女性に向かつてただただ温良貞淑をのみ強要せむとするごとき夫は
いはゆる奴隷の道徳を異性に強ゆるものであります
私たちは社会の因襲的
かかる悪弊は絶対的に排除したいものでございます
今日の多くの婦人の間に媚びるとか
甘へるとか
じやれるとか
飼ひ犬や
飼ひ猫と共通的な性情をさへ具有せしむに至つた悲しむべき事実を見るにいたつたのは
つまり今までの人間に少しも恋愛結婚に対する理解力がなかつたからでございます
私は第一
主人だとか番頭だとかの下らぬ障壁を取除き
神聖なる恋愛に生きたいものでございます
これ故になにほど立派な男でも智者学者でも
この間の道理が分らない頑固な人には
一身を任せることは出来ませぬ
恋愛至上の思想があつて初めて一夫一婦の的確なる精神的・道理的・合理的基礎を与ふることが出来るものでせう
それ以外の一夫一婦論は偽善説にあらざれば
すなはち単なる便宜的・因襲的・実利的の御都合主義か
形式主義たるものに過ぎないでせう
理想の合はない夫婦は
何時か相互の間に必然的紛擾を起し
モルモン宗のやうに一夫多妻主義を止むを得ず採らなければならないやうになります
また女の方では已むを得ずラマ教のやうに
表面はともかく
裏面に一妻多夫主義を心ならずも行はねばならぬやうな破目になりますから
この結婚問題のみは
なにほど両親の言葉といつても承諾することは出来ませぬ
それゆゑ番頭さまも私も困り果ててゐるのですよ
頑迷不霊の親を持つた娘ぐらゐ不幸なものはございませぬ

またしても恋愛神聖論者がやつて来て
吾々の頭脳に一種異様の反響を与へよつた
しかしながらこの女のいふことも
今日の人間としてはもつとも勝れた考へだ

・・・「人(霊止)還りの道」634編へつづく


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