「人(霊止)還りの道」383編


窮すれば達す
悲しみの極みは喜びなり
喜びの極みは悲しみなり

すべて病に悩む時は笑ふのが一番ぢや
大口をあけて他愛もなく笑ひ興ずる
その瞬間こそ無上天国の境涯ぢや

俺は十八お嬢さまは十七の花盛り
一人の乳母に手を曳かれ
梅を散らした裾模様
黒縮緬の扮装で
ぞろぞろぞろと桜見に
お越しになさつたその時に
あちらに五人こちらには
また七人と酒を呑み
呑めよ騒げよ一寸先や暗夜
闇の後には月が出る
月はつきだが縁のつき
俺は髯武者男をとつかまへ
習ひ覚えた柔道で
ウンと一声なげやつた
空中二三度回転し
命からがら逃げてゆく
後振りかへり眺むれば
乳母にお手を引かれつつ
館をさして帰りゆく
あれほど美しいお姫さま
も一度お顔が拝みたい
何とか工夫はないものか
手蔓を求めて三助と
なつて月日を待つうちに
思ひもかけぬ御結婚
アゝ是非もなし是非もなし
爺が鳶に油揚
もつていかれた心地して
せめては駕籠の御供を
さして貰つたを幸ひと
ここまでウントコついて来た

駕籠の中から細い涼しいお姫さまの声として「この駕籠ちよつと待つた にはかにお腹が痛み出したから今日の結婚 嫌だ嫌だ帰る」と仰有つてお聞きにならぬ
サア大変だ
結婚の途中お姫さまが引つ返したのだからどつちの家も大騒動
それからたうとう駕籠は家に帰り奥の間にサツサとお姫さまは腹痛も忘れて入つてしまつた
よくよく聞けば「あの駕籠舁きと夫婦にしてくれねば妾は死ぬ」と駄々を捏ね
俺はお姫さまの座敷に呼び入れられ山野河海の珍肴を姫の細い白い手でお酌をしてもらひ初めて結婚の式を挙げて夫婦となり沢山の財産を与へてもらふことになつたのだ
と手をひろげた途端
目が醒めたら何の事だ
破れ小屋の二畳敷で汗をビツシヨリかいて夢を見てゐたのだつた
アハゝゝゝ

・・・「人(霊止)還りの道」384編へつづく


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