「人(霊止)還りの道」361編


アゝこれはこれはお二人様待つてをりました
大変早うお越しでございましたなア
奥に御馳走がこしらへてありますから一つ召し上つて下さい

何と隅から隅まで完全無欠なムサ苦しい家だなア
なにほど山海の珍味でもこの光景を眺めては咽へは通りませぬワイ
コレコレお女中一体ここは何といふ所ですか

ここは三途の川といふ所でございますよ

さうするとやつぱり私は亡者になつたのかいなア

ホゝゝゝゝ亡者といへば亡者
生きてゐるといへば少し息が通うてゐる
三十万年後の二十世紀のやうな者だ
半死半しよう泥棒とはお前さまのことですよ
私は三途川の有名な鬼婆で辞職のできぬ終身官だよ
ホツホゝゝ

オイオイ馬鹿にすない
そんな鬼婆があつてたまるかい
年は二八か二九からぬ
花の顔容
月の眉
珂雪の白歯
玲瓏玉の如き肌の具合
どうしてこれが鬼婆と思へるのか
あんまり揶揄ふものではありませぬぞ
お前さまはちやうど二十一世紀のハイカラ女のやうなことをいふじやないか
こんな娘が婆アとはどこで算用が違うたのだらうなア

ホゝゝ訳のわからぬ男だこと
百年目に二三年づつ人の寿命が縮まつてゆくのだから二十一世紀の末になると十七八才になり大変な古婆だよ
モ三歳になると夫婦の道を悟るやうになるのだからお前さまもよつぽど頭が古いね

さうするとここは二十一世紀の幽界の三途の川だな

三途の川は何万年経つても決して変はるものではない
この婆アだつて何時までも年も老らずいはば三途の川のコゲつきだ
サア早く奥へ来て饂飩でも喰べたがよかろうぞや
大分に腹がすいてゐるだろう

それならとも角も奥へ通してもらはう
この女はバの字とケの字に違ひないから油断をすな
そして一歩一歩探りさぐりゆかぬと陥穽でもこしらへてあつたら大変だぞ
亡者でもやつぱり命が惜しいからなア
また外から見れば金殿玉楼
中へ入つて見れば乞食小屋といふやうなお館へご案内下さるのですかなア
何でまたこれだけ外に金をかけて立派な家を建てながら中はこんなにムサ苦しいのだらう
なア婆アさまコラ一体何か意味があるだらうな

ここは三途の川の現界部だからこんな家が建ててあるのだ
現界の奴は表面ばかり立派にして人の目に見えぬ所はみなこんなものだ
口先は立派なことをいふが心の中は丁度この家の中見るやうなものですよ
私だつてこんなナイスに粉飾してるがこの家と同様で肝腎要の腹の中は本当に汚いものだよ
お前さまも○○教だとかのレツテルを被つて宣伝だとか万伝だとかいつて歩いてゐるだろう
腐つた肉に神司服を着けて糞や小便をそこら中持ち歩いて神様をだしに物のわからぬ婆嬶に随喜渇仰の涙をこぼさしてゐたのだろう
私もこの着物を一つ剥いたら二目と見られぬ鬼婆アだよ
白粉を塗り口紅をさし白髪に黒ンボを塗り身体中に蝋の油をすり込んでこんなよい肉付にみせてゐるが一遍少し熱い湯の中へでも這入らうものなら見られた態ぢやない
サアこれからは本当の家の中へ伴れていつてあげよう
イヤ奥の間へつれて行きませう

何と合点のいかぬことをいふ娘婆アさまぢやなア
何だか氣味が悪くなつてきた
かういはれると自分らの腹の中を浄玻璃の鏡で照らされたやうな氣分になつてきたワイ
まるきり現代の貴勝族の生活のやうだなア
外から見れば刹帝利か浄行か何か貴い方が住んでゐるお館のやうだが中へ這入つてみると毘舎よりも首陀よりも幾層倍劣つた旃陀羅の住家のやうだのう

コレコレお二人さま何をグヅグヅいつてらつしやるのだ
この家が見えませぬか
水晶の屋根
水晶の柱
何もかも一切万事器具の端にいたるまで水晶でこしらへてあるのだからお前さまの曇つた眼力では見えませうまい
私の体だつて神界へ這入ればこれこの通り見えますまいがな

目は開いてゐるが家の所在や娘婆アさまの姿がちよつとも分らぬ
これでは盲も同然だ
なにほど結構でも家の分からぬやうな所へやつて来て水晶の柱へでもブツカツたら大変だからヤツパリ俺は最前の現界の家の方が何ほどよいか分からぬわ
コレコレ娘婆アさまどこへ行つたのだい
お前の姿だけなつと見せてくれないか

ホゝゝ何とまア不自由な明盲だこと
モ少し霊を水晶に研きなさい
そしたらこの立派な水晶の館が明瞭に見えます
サアこれから幽界の館を案内しませう
私について来るのだよ
お前さまたち帰なうといつてもモウこう冥途へ来た上はメツタに帰ることは出来ませぬぞや
ここは三途の川の渡場だ
それここに汚い藁小屋がある
これが幽界のお館だ
いやらしいのは当然だ
亡者の皮を剥ぐ脱衣婆アだからサアこれからお前さまたちの衣をはがすのだ

オイ婆アさま離した離した
こらへてくれ
こらへてくれ

何といつても離さない
ここは幽界の関所だからお前たちを赤裸にして地獄へ追ひやらねばならぬのだ
この三途の川には神界へ行く途と現界へ行く途と幽界へ行く途と三筋あるからそれで三途の川といふのだよ
伊弉諾尊様が黄泉国からお帰りなさつた時に御禊をなさつたのもこの川だよ
「上つ瀬は瀬強し下つ瀬は瀬弱し中つ瀬は下り立ちて水底に打ちかづきて御禊し給ひし時に生りませる神の名は大事忍男神」といふことがある
それあの通り川の瀬が三段になつてゐるだろ
真中を渡る霊は神界へ行くなり
あの下の緩い瀬を渡る代物は幽界へ行くなり
上の烈しい瀬を渡る者は現界に行くのだ
三途の川とも天の安河とも称へるのだからお前たちの霊の善悪を検める関所だ
サアお前たちはどこを通る心算だ
真中の瀬はあゝ見えてゐても余ほど深いぞ
グヅグヅしてると沈没してしまふなり
下の瀬は緩い瀬を渡ればよいがその代はりに幽界へ行かねばならずどちらへ行くかな
モ一度娑婆へ行きたくば上つ瀬を渡つたがよからうぞや

なにほど瀬が緩いといつても幽界の地獄へ行くのは御免だ
折角ここまでやつて来て現界へ後戻りするのも氣が利かない
俺はどうしても神界行きだ
虎穴に入らざれば虎子を得ずといふから一つ運を天に任し俺は神界旅行に決めた
時に途中で別れた連中はどこへ行つたのだらうか
婆アさまお前知つてるだらうな

あいつらかい
あいつらは一途の川を渡つて八万地獄へ真逆様に落ちよつたのだよ

一途の川とは今聞き始めだ
どうしてマアあいつらはそんな所へ連れて行かれよつたのだらう

一途の川といふのは善一途を立てた者か悪一途を立てた者の通る川だ
善一途の者はすぐに都率天まで上るなり
悪一途の奴は渡しを渡るが最後八万地獄落ちる代物だ
いづれ幽界の関所を守るやうな婆に慈悲ぢやの情けぢやの同情などあつてたまるかい
根つからの悪人だから三途の川の渡守をしてゐるのだ
善人が来れば直ぐに最前のやうな娘になり
現界の奴が来れば上皮だけ綺麗な中面の汚い娘に化ける
悪人が来ればこんな恐ろしい婆になるのだ
つまりここへ来る奴の心次第に化ける婆アだよ

イヤ婆アさま
大変にお邪魔をいたしました
御縁があつたらまたお目にかかりませう
左様なら
まめでご無事でお達者で
ないやうに早くくたばりなされ
オホゝゝゝ

コリヤ
貴様らは霊界へ来てまで不心得な
悪垂口を叩くか
神界へ行くといつてもやらしはせぬぞ

・・・「人(霊止)還りの道」362編へつづく


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