「人(霊止)還りの道」360編


かく話すをりしも
枯草の中から忽然として現はれた仁王の荒削りみたやうな真赤の角を生やした裸鬼が虎の皮の褌をグツと締め蒼白い牝牛のやうな角を額から二本突き出しながら「オイ亡者ども!」と大渇一声した
男は初めて「自分が冥途へ来てゐるのだなア」と合点した

されど男は「自分は誠の神様のお道を伝ふる真最中に死んだのだから決してかやうな鬼に迫害されたり虐げらるるものではなく善言美詞の言霊さへ使へば即座に消滅するものだ」と固く信じて他の亡者のやうに左程に驚きもせず平然として鬼どもの顔を打ち眺めてゐた

青鬼はこの男と団体の代表の男にちよつと会釈して比較的優しい顔で「エー御陵人様 貴方がたはこれから私が御案内しますから三途の川の岸まで来て下さい 他の奴らは黒・赤両鬼に従つてここを右に取つて行くがよからう サア行けツ」と疣々だらけの鉄棒を持つて追つかけるやうにする
他の亡者らはシホシホと黒・赤の鬼に引かれて茫々たる枯野ケ原の彼方に消え去つた

青鬼は二人の男を送つてやうやくに水音淙々と鳴り響いてゐる広き川辺に到着した
川辺には何とも知れぬ綺麗な黄金造りの小ざつぱりとした一軒家が立つてゐる
青鬼は鉄門をガラリとあけ中に這入つて「只今 娑婆の亡者を二人送つて来ました どうぞ受取り下さいませ」と丁寧に挨拶してゐる
青鬼は二人に向かひ丁寧に頭をピヨコピヨコ下げて「私はこれからお暇を申します 館の主人さまに何もかも一伍一什申し上げておきましたからどうぞご勝手に入つて悠つくりお話をなさいませ」といひながら大股にまたげて鉄棒を軽そうに打ち振り打ち振り元来た道へ引つ返すのであつた

かく話すところへ館の戸を押し開いて現はれて来たのは十二三才の美しい二人の娘であつた
二人の少女は丁寧に手をつかへ「サアどうぞお姫さまが最前からお待ちかねでございます お弁当の用意もしてございますからどうぞトツクリとお休みの上お食り下さいませ」といはれながら少女に引かれて二人は閾をまたげた
外からみれば金光燦爛たるこの館の中へ入つてみれば荒壁が落ちて骨を剥きだしまるで乞食小屋のやうである
そしてそのむさ苦しいこと異様の臭氣がすることお話にならぬと口々に呟いてゐると破れた襖障子をパツとあけて奥からやつて来たのはこはそもいかに汚い座敷には似合はぬ立派な衣裳を着した妙齢の美人で裲襠姿のまま破れた畳の上を惜し氣もなく引きずりながら現はれ来たり

・・・「人(霊止)還りの道」361編へつづく

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